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舞台化作品アイキャッチャーの写真は、舞台「新宿のありふれた夜」チラシ、虎の会制作 舞台「婢伝五稜郭」チラシ、グループ虎・10・Quatre制作、イラスト 宇野亜喜良

V音表記基準

日本語で文章を書く場合、外国語のV音をどう表記するかは、むずかしい問題です。
バビブベボ表記と、ヴァヴィヴヴェヴォ表記と、ふたつの表記スタイルがあります。
後者のほうが、原語により近い日本語表記という印象はありますが、
わたしは、現在は原則として、バビブベボ表記を採っています
(小説を書き出してから最初はかなり悩み、混乱してきました。ですから、
一部、混用したままの作品も残っています)。

この原則を採用した理由は、つぎのような理由によるものです。
1、日本人は、通常B音とV音を区別して発音しない。
2、BとVのスペルのちがいを書き分けると、混乱はいっそうはなはだしいものになる。

たしかに、「バイオリン」と書くよりも、「ヴァイオリン」と書いたほうが、
文章は格好よく見えるような気がします。
この書き手は耳がいい、外国語をよく知っている、とも読者に感じてもらえそうです。
でも、わたしたちはふつう、VIDEOやVIOLINという外国語を、
V音で「ヴィデオ」「ヴァイオリン」とは発音していません。
日本に帰ってきたばかりの帰国子女であればともかく、
日常的には「ビデオ」、「バイオリン」と発音します。

わたしは、日本人の会話を書くとき、リエゾンや音便もできるだけそのまま、
発音に近い書き方にします。たとえば江戸っ子の職人の言葉なら
こうなるでしょう。
「はよざいます、若旦那。きょうび、またお寒うなりやした」
これを、つぎのようにわざわざ直すことはないでしょう。
「おはようございます、若旦那。今日はまたお寒くなりました」
ですから、「ビデオ」「バイオリン」と発音しているひとの台詞を書く場合は、
やはり「ビデオ」「バイオリン」と表記せざるをえません。

「あのヴァイオリニストが天才だなんて、オーヴァーだよ。ヴィデオを観ればわかる」
これはどうしても不自然です。
読者も、この表記スタイルで台詞が書かれていれば、
キャラクターに特別な意味をもたせている、と解釈するのではないでしょうか。
ただし将来は、V音で発音するひとの台詞と、
B音で発音するひとの台詞は、区別して表記して、
それが不統一とも不自然とも思われない、という状況にはなるかもしれません。

では、いわゆる地の文だけでも、ヴァ行表記とすべきでしょうか。
その場合、こういうことになります。

彼は、ヴィデオデッキを指さして言った。
「そのビデオ、観ようぜ」

これも不可思議な表記スタイルです。

「ビデオ」はすでに日本語である、という意見も聞きました。
「ビデオ」のように、日本語としてB音で発音されている言葉については、
バビブベボ表記でいい。
ただし、日本語になっていない外国語については、
Vの音、Vのスペルはヴァ行表記にすべきだと。
でも、この表記原則の問題点は、日本語になった言葉と、外国語との区別が、
きわめてむずししいことです。
VIOLINは日本語になっているのでしょうか。それともまだ外国語のままでしょうか。
VARIETYは? VIOLENCEは? 

「そのバラエティ・ショーを録画したビデオテープの中には、
ドメスティック・ヴァイオレンスの衝撃映像が映っていた」
という表記がありうることになります。
混乱、不統一、という印象はまぬがれません。

以上のような理由で、わたしはバビブベボ表記を原則としたのですが、
これでもなおしっくりしていないことも事実です。
メディアの側の表記基準に合わせて、原則を曲げることもあります。
書評などで、本のタイトルにヴァ行表記があれば、
それはそのまま書き移さざるをえません。全体の統一性が取れなくなっても。

キューバの首都は、英語ではHAVANAですが、現地スペイン語では
HABANAです。
ヴァ行表記を採用する場合、この街の名を、ハヴァナと書くべきでしょうか。
それともハバナでしょうか。

キューバの首都の例から、こういうことがわかります。
欧米人のあいだでも、B音とV音の発音の差はさほど大きいものではない。
どらちで発音しても、あるいはどちらのスペルを使っても、意味は通じる。
となれば、日本人がバビブベボ表記を使っても、それほどおかしくはない、
と言えそうです。

わたしは、将来、事情が大きく変わってしまわないかぎりは、
バビブベボ表記を表記基準とします。