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創作絵本の原作として書いたのだけれども
出版社の都合で企画が流れ、作品は宙に浮きました。
無断転載・引用はお断りします。
昭和33年6月、札幌でサーカス小屋が火事になった。
動物たちの多くは焼け死に、
逃げ出した一頭の象は少女を踏みつぶした。
少年だったわたしは、その火事の現場にいた。
ほんとうは必要のない注釈ですが。
サーカスがもえた |
サーカスがくる、やってくる
夏にはまいとしサーカスがくる
あたしはなんども行っている
ぜったい見たいととうさんに
せがんで行ってる、くるたびに
ひろばにたつのは、大きなテント
いろとりどりの、はた、のぼり
だんだんしきのきゃくせきと
まるいステージ、二本のはしら
まくのうらからジンタのひびき
馬のきょくのり、ぞうの芸
空中ブランコ、つなわたり
ずっこけピエロはどじばかり
人間ほうだん、大まじゅつ
つぎからつぎへとゆめみたい
ずっと終わってほしくない
わくわくばかりのゆめじかん
あらあらふっと気がつくと
どこかでけむりがにおってる
けむりがあたりにただよってくる
おやおやなにかがもえてるぞ
早くけさなきゃあぶないぞ
ピエロがはしらによじのぼり
いけない、火事だと、大声だした
とうさんびっくりとびあがり
まわりのだれもが大さわぎ
にげなきゃにげなきゃあぶないぞ
ぶたいにほのおがはってくる
馬も火事には気がついた
火のわをとびぬけ、いちもくさん
ぶたいのさくもとびこえた
ひとはおしあいこづきあい
へしあいわれがち出ぐちへむかう
ぞうさんぶたいにとびだしてきて
ほのおのほうへ水かけた
ほのおはきえないそのうちに
もっと大きくもえあがる
おはなのホースじゃけしきれない
はしらの上で女の子
だれかたすけてとさけんでる
ぶらんこじょうずな女の子、
赤いチュチュきた小さな子
わんわん泣いてるさけんでる
ブランコのりがいまいくと
ブランコふってちかくまで
あっとあぶない手がとどかない
ブランコふれる、にど、さんど
ゆうきを出して女の子
ぱっと空中にとびだした
ブランコのりが手をのばし
りょう手をつかんでおどりばへ
テントの中は大こんらん
なかなか出ぐちへすすめない
とうさんあたしをだきあげて
にげるひとたちに声かけた
だれかこの子をうけとめて
みしらぬおじさんふりかえり
よしきた、こいと、手をさしだした
とうさんあたしをほうりだし
あたしのからだはちゅうにうく
うけとめられてもひとのなみ
なにがなんだかわからない
とうさんてすりをとびこえて
たれてるつなにぶらさがる
つなをつたってするすると
出ぐちのそばにぶじちゃくち
とうさんまるで、かるわざし
とうさんあたしの手をつかみ
テントの外にとびだした
外のひろばもひといっぱい
とうさんあたしをおんぶして
ひとをかきわけまだにげる
おねがいおねがいどいとくれ
とうとうテントはもえあがり
みるみるうちにめらめらと
赤いほのおにつつまれた
あたしは見ていた、なにもかも
とうさんの背で見つめてた
おもえばあれは八さいのとき
ひろばのサーカス、もえたのだった
あのときあたしは八さいだった
サーカス・テントがもえつきるまで
とうさんの背で見つめてた
ひろばのサーカスやけおちるまで
目もそらさずに見てたのだった
かんがえてみたらあれっきり
あたしはおんぶしたことがない
とうさんにおんぶ、したことがない
あの日をさかいにもうあたし
小さなこどもじゃなくなったから
あの日あたしのむねのどこかで
なにかがひとつ終わったから
サーカスがくる、やってくる
まちのひろばにはこの夏も
サーカスがくる、やってくる
でもあたしのしってるサーカスは
はらはらいきのむサーカスは
どきどきまほうのサーカスは
わくわくゆめのサーカスは
あれからいちどもきたことがない
たぶんこれからもくることはない